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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2017-11

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体験入学 第三章(7)


(7)

 出かける前に、自分の昔の靴を武生に履かせようとした知香は、下駄箱の中を探し始めた。武生は焦った。そこには、体験入学の時に使ったバッグや、制服店で購入したフォーマル靴、スニーカーが入っていたからだ。下駄箱の中なんて誰も見ないとたかをくくっていたのが間違いだった。
 案の定、知香はすぐにそれを見つけ出してしまう。
「……へぇ、こんな靴まで買っていたんだ。それに、こんな可愛いバッグも。ほら、持ちなさいよ。兄ぃのでしょ?」
 いまの台詞に若干の違和感を覚える武生。しかし、それがなんなのかは判らないまま、バッグを背負い、スニーカーを履く。そしてついに、ドアを開けて外に出るよう指示された。玄関のドアを開けると外の明るい景色が一気に広がって、武生の膝が震えた。
「ちょっと背中向いて」
 知香に言われるがまま、玄関先で彼女に背中を向ける。知香はバッグを開けて、そこに何かを詰め込み始めた。
 知香が家の方にいるので、彼はどうしてもお向かいに直接顔を向けることになる。そして武生の目が、お向かいのお姉さんの姿をとらえた。
 お向かいの三沢千草(みさわ ちぐさ)は、武生より六歳ほど年上のOL。兄妹揃って子供の頃からお世話になった、そんな相手である。そんな相手にいまの自分の姿を見られるなんて……。
「や、やだ、ばれるよ……!」
「何言ってるのよ、兄ぃ。……あ、千草さんじゃない。こんにちはー、千草さん」
 知香は何の躊躇いもなく、千草に声をかけた。武生はぎょっとする。同時にやっと、さっき知香の台詞から感じた違和感の正体に気付いた。知香はさっきから、自分を「兄ぃ」とよんでいるのだ。その意図は、まさか。
 休日とあってオフなのだろう、私服姿の千草は、二人を見つけるとにっこり笑って近寄ってきた。
「こんにちは、知香ちゃん。……あら、可愛いわね、その子。知香ちゃんのお友達? だいぶ年下みたいだけど」
「違いますよ、千草さん」
 知香は笑い、そして、決定的な一言を口にした。
「ほら、兄ぃ、どうしたの? 千草さんじゃない、ちゃんと挨拶してよ」
「え……? た、武生くん?」
 彼女は驚いた目つきで、どう見ても小学校低学年の女児にしか見えない服装の武生を、まじまじと見た。どんな服を着ていようが、子供の頃からの付き合いで、目の前にいるのが武生だと判ったのだろう。やがてその顔が、納得したような、それでも腑に落ちないような、奇妙な表情を浮かべる。
 武生は顔を真っ赤にして、目を閉じた。「お向かいのお姉さん」からそんな顔で見られることに、とても耐えられなかった。
「え……で、でも、何で武生くん、そんな服着てるの? 何かの罰?」
「違いますよ。兄ぃ、こっそりあたしのお古の服を着ていたんです。それも、下着まで。だから、そんなに着たいのなら堂々と着てなさいよって言ったら、じゃあお外に行きたいって」
「そうなの……でも、外にお出かけするのはどうかしら。女の子の服を着たいなら……えっと、止めないけど、家の中だけにしておいたほうが良いわよ、武生くん?」
 目の前の武生の姿に戸惑いながらも、それでも理解と良識ある態度を崩さない千草。こんなに良い「お姉さん」の前で恥ずかしい姿をさらしていることに、武生は泣きそうになった。
「あたしもそういったんですけどね、どうしても聞かなくて。ね、兄ぃ」
「武生くん、考え直したらどうかしら。あとで武生くん自身が恥ずかしい思いをするかも知れないし、それに、ご近所で話題になったらご両親の耳にも入るわ。そうなったら、ご両親も悲しむわよ?」
 情理をつくした、千草の説得。しかし知香は兄の背後から、言葉とは全く逆の強いプレッシャーを与えていた。
 このまま二人の説得を振り切って、出かけなさい、と。
 武生は一瞬、すべてを千草に打ち明けたい衝動に駆られた。しかしそれは、自分の不始末すべてを、この、お向かいに住んでいる気のいい女の人に押しつけることになってしまう。それならば、彼女に蔑まれてでも、すべて自分の責任として引き受けるほうがマシだった。
「い、いいの、だいじょーぶだから!」
 武生は「特訓」で身につけた、小さい女の子のような声を出す。それを聞いた千草が、驚いたような目で彼を見た。全く見知らぬ人を見たような目だった。
「じゃ、行ってきます、知香お姉ちゃん、千草お姉ちゃん! ばいばい!」
 そういって大きく手を振り、彼は駆けだした。千草の視界から、一刻も早く逃れるように。走って、走って、走った。走りながら頬が濡れていることに気付き、彼はまた、走った。
 ――柚川武生の初恋は、こうして、最悪のかたちで幕を下ろした。
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