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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2017-11

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体験入学(9)


 (9)

 自分で女の子の名前を名乗るというのは、武生に対して予想した以上の動揺を与えた。どんなにそれが、やむを得ず言わされたものであるにせよ、自分から女の子の名前を名乗ったのだ。それはつまり、自分で自分をそのように規定したと言うことに他ならない。
「ゆずかちゃんかぁ。可愛いお名前ね」
 恥ずかしさと、自我の動揺を招くほどの自己紹介だったが、ユウミはそれで満足しなかった。
「でもね、ゆずかちゃん。あたしのほうがゆずかちゃんよりお姉ちゃんなのよ。だったら、あたしのことをお姉ちゃんって呼ばないと、おかしいんじゃない?」
 ユウミは武生にそう言って、同意を求めるように、向こうで見ている女性二人を見る。店員も、お母さんも、しごく当たり前のように肯いた。
 屈辱に泣きそうになりながら、武生はユウミに答えた。
「ご、ごめんなさい、ユウミお姉ちゃん。ユウミお姉ちゃんは、ゆずかよりもお姉ちゃんです」
「はい、よく言えました。いい子ね」
 ユウミは背伸びして、武生の頭を撫でようとする。ぎりぎり武生の頭に手が届き、武生は小さな女の子に頭を撫でて誉められるという、男子高校生としてはありえない経験をした。
「文月さんも、相変わらずね」
「なかなか可愛い子でしょう。できればこれからも来て欲しいくらいですね」
 ユウミのお母さんと、文月と呼ばれた店員が、笑い交わしながら囁きあう。やがてユウミのお母さんが、娘に声をかけた。
「ユウミ、そろそろ行くわよ。……それじゃ文月さん、ゆずかちゃん、またね」
「はぁい。文月お姉ちゃん、ゆずかちゃん、またね!」
「はい、ユウミちゃん、またね。それじゃ薬野さん、またいらっしゃってください」
「…………ユウミお姉ちゃん、バイバイ……」
 ここで返事をしないと、またどんなことになるか判らない。武生は大人しく、「ユウミお姉ちゃん」に返事をした。
 それを見た文月が、含み笑いをする。
「良かったわね、ゆずかちゃん。早々とお姉ちゃんができて」
「……ふざけないでください」
 武生はじろりと、精一杯の怖い表情で彼女を睨む。
「なんでこんなことするんですか! ……女の子の服着るのだって、別に俺の趣味って訳じゃありません。俺とあいつの態度見てれば、十分判るでしょうに……なんで、あんな恥ずかしいこと言って、あんなことさせるんですか!」
「まぁ怖い」
 文月はそんな彼に、やはり笑った。一瞬沸騰しかける武生だったが、次の瞬間、文月は彼に思い切り顔を寄せ、彼の顎を軽く掴んで自分のほうに向けながら、真剣な表情と低い声で、立て続けにこういった。
「でもね、柚川くん。趣味でないんなら、貴方がこんな恥ずかしい服を着る理由はただ一つ。やむにやまれぬ事情があるからでしょう? だからこそ、深山附属幼稚園の制服を着なくちゃならないんでしょう? ……だったら捨てなさい、そんなつまらない意地は。理由があるから恥ずかしい服を着なければならない、そちらのほうが貴方にとっては大切な事情のはずよ。むしろここで恥ずかしい思いをしてまで守り抜く矜恃、そいつを見せてみなさい。
 ここで小さな意地にしがみついて、貴方が本当にしなければならないことを見失うのか。それともここで恥を忍んで、大局を考えた行動をするのか。……さぁ、どうするの」
「……っ! だからって、あの場面であんなことを言わなくたっていいはずだ!」
 正論と判っていながら、なおも武生は食い下がる。確かに事情があるのは間違いない。しかし先ほどの対応は、明らかに彼を辱めるためのものだ。覚悟を試すとかそんなことでは、ごまかされない。しかし文月は、涼しい顔でこういった。
「ならこれから、あんな風に女の子として扱われることがどれだけあると思っているの? あんなこと、これからいくらだって出てくるでしょうに。……こっちの部屋で貴方が来るまでの間に、翠さんからおよその事情は聞いたわ。なら、一刻も早く女の子として扱われ、女の子として振る舞うことに慣れた方が良いんじゃないかしら? 体験入学で男の子だってばれたら、とんでもないことになるんだからね」
 言うだけ言って、文月は武生の顎を押し、顔を離した。よろめく武生に目もくれず、彼女はカウンターで、先ほどの親子の注文票を書き入れ始めた。
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